2021/06/13
賭博黙示録や破戒録カイジのスピンオフの「中間管理録トネガワ」「1日外出録ハンチョウ」などが人気です。
これらの人気が出た要因は、いい年をしたおっさんが、自分の自由時間に好きなことや趣味を楽しんでいるところが年代の近い男性たちに受けたためではないかと考えています。
おっさんが趣味に夢中になっている漫画は結構ありますが、特に「ハンチョウ」の方は主人公の大槻班長が多趣味でもあり、知識も豊富であるためにテーマが一つに絞られていません。余暇の使い方を気分や体調や天候によって選択するのがうまいのですね。
ここではそうした漫画について、いくつか紹介していきたいと思います。釣り、麻雀、鉄道、グルメ、旅行などに特化した漫画も多いのですが、基本的にテーマを絞らない漫画について触れていきます。
あとから特化型の漫画についても紹介できたらとも思います。
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Contents
上原 求、新井和也、萩原天晴、福本伸行「1日外出録ハンチョウ」
冒頭から触れた、休日満喫型の漫画です。「賭博破戒録カイジ」でカイジの前に最初に立ちはだかったキャラクターで、チンチロで対決しました。
地下の工事現場で作業する班を取りまとめている大槻班長が主人公です。
地下の人員たちは借金のカタで仕方なく仕事をさせられているのですが、そこで溜めたお金を使って1日外出することができます。大槻もその制度を利用して1日外出し、休みを満喫しているという内容です。
この大槻という人物は遊び方が実に幅広く、他の地下人員が酒や女を目当てに地下を出るのに対し、大槻は海ではしゃいだり、山でカレーを作ったり、健康ランドでリフレッシュしたりと、その時自分のしたいことをしています。読んでいて自分も仕事休みの日に行きたくなるような楽しみ方で、かなり影響を受けました。
ついには京都の歴史探訪や名古屋の名物探しに足を延ばしたりする回も。まさか「カイジ」のシリーズから派生して旅行ガイドのような漫画を読めるとは思っていませんでしたね。
個人的には2巻の、風邪を引いた大槻が完璧な対処法で治しにかかる回(「一休」)が好きですね。
小坂俊史「わびれもの」
こちらは全国各地のわびしいさびれたスポットを紹介していくという、探訪型に特化した内容です。
描くのは4コマ王子こと小坂俊史さん。とはいえ内容は4コマではなく、通常の4段コマ割となっています。本が出た当時小坂さんは30代半ばでしたから、おっさんかどうかは判断が分かれるところでしょうが。後にご結婚されています。
行き先は都内近郊ということは全くなく、序盤から岩手県や山口県へと、日本のあちこちへ出かけてそこでさびれたスポットを紹介してくれます。4コマ作家の矜持からか、話の中でも定期的に落ちをつけてくるので面白エッセイコミックとして楽しめます。各所の写真も(少しですが)収録されているため、後ろ向きな旅行ガイドにもなっているかも。
宗谷岬、足尾銅山などの、名前は知っているけれど実際にはどんなところなんだろうという場所も実際に行かれて紹介されています。廃墟ではなく廃墟になりかけているような場所がいくつもあり、そこが何とも朽ちる前のわびしさ全開でぞくぞくします。
小坂さんは鉄道好きというよりかは無人駅大好きということで、鉄道ネタもいろいろと。私が住んでいる県も紹介されていて複雑な心境でもありました。
1巻で終わりかと思いきや、「わびれものゴージャス」という続編が出ています。
寺門ジモン、刃森 尊「ネイチャージモン」
ご存知ダチョウ倶楽部のメンバーである寺門ジモンさんが主人公となった漫画で、彼という生き様やその活躍を存分に知ることができます。
トリオとして出てくるときは竜ちゃんやリーダーに比べてさほど目立っていない印象のジモンさんですが、実はかなり強烈なキャラクター。体を鍛え続けているだけでなく、独自の理論から災害からも生き延びられるように普段の備えを欠かしません。
同行する若手編集者に趣味を全開にしていろいろ指導してくれる様子が、ウザくもあるがなるほどと思わされるところも多いのです。
取り上げられるジャンルははいろいろ多岐に渡っているのかと思いきや、意外と偏っています。肉、クワガタ、サバイバルが多めです。
その中でもとりわけ肉について造詣が深い方なので、各巻でだいたい1つは肉関連話が出てきますね。ジモンさん行きつけのお店紹介という形が多く、そこで出される極上のメニューがこれまたおいしそうで、グルメ漫画としてもいける内容。松阪牛を食べる回などよだれが出てきます。
松坂牛と言えば、ジモンさんは松阪牛のセリに見物客ではなく関係者として参加していたという逸話がありますが、本作でも3巻でその様子が描かれています。
岡本健太郎「山賊ダイアリー」
こちらは山に入って獲物をとって、自分で料理して食べるという模様が山賊のような漫画です。
作者の岡本さんは実際に狩猟免許をお持ちとのことで、山の中でハトやウサギを仕留めています。山賊というか猟師のようにも思えますね。なぜか顔がイケメンに描かれています。実際のご尊顔は存じないんですが。
銃だけでなく罠を仕掛けて獲物がかかるのを待ったり、友人たちと協力して山へ入ったりと、やり方はいろいろあるようで、こうした山に慣れた感じには少し憧れます。私自身があまり自然に入っていかないからでしょうかね。
狩猟免許の取り方から、マムシの食べ方まで紹介されており幅広いチャレンジが魅力的。さすがにストーリーもあるために事細かな説明はできないのか、ハウツー本とまではいきませんが、読んだ人に興味を持たせる内容であることは確かです。
桜 玉吉「幽玄漫玉日記」
コミックビームの看板作家でもある玉吉さん。「しあわせのかたち」の中盤以降から「防衛漫玉日記」へと続いてきた日常を描いた作品で、今作が最長の全6巻です。
本作は初っ端から玉吉さんがうつ病を患っていた状況から始まり、薬を飲んで平常に行きつ戻りつしていた時期です。そんな中でも漫画のネタ探しもかねていろいろなことにチャレンジしており、玉吉さん独自の視点で描かれています。
スタッフやアシスタントなどの脇を固めるキャラクターも魅力的で、それぞれが強烈な個性を持っています。
1、2巻は会社を作ったり株を買ったりといささか大人の社会寄りの試みもありましたが、そんな中でも伊豆で今秋最終バトルを繰り広げたり、温泉宿へ連れ立って行ったり、沖縄へ編集者たちの社員旅行をこっそり見に入ったりと、いろいろ出かけています。
個人的には3巻、4巻が精神的に疲弊していたのか、読んだ側が安らぎを得られるような穏やかな雰囲気の話が多くて好きです。スピリチュアルな話ではなくて、1人でラジウム温泉に行って湯治したり、お寺の座禅会に参加したり、キャンピングカーを買って夜に出かけたり。私もやってみようかなと思う要素がたくさんありました。名作。
清野とおる「その『おこだわり』、俺にもくれよ!!」
清野(せいの)さんはイラスト描きの仕事も多く、いろいろな雑誌でその絵柄を見たことがある方が多いと思います。とりわけ「SPA!」ではよく見かけます。
本作は日常生活の中で世間的にはどうでもいい事項にこだわりを見出す人々にインタビューする形式で、いろいろな「おこだわり」を紹介する漫画です。人気があったのか、ドラマ化もしてDVDが出ていたりします。
表紙絵からなんとなく予想がつくかと思いますが、グルメネタも多いです。テーマからするとB級グルメだろうと思われますよね。
第1話がいきなり「ツナ缶」へのこだわり。お酒のつまみに選んだツナ缶が実においしかったことが始まりで、さらにおいしい食べ方を研究しているというおっさんが登場して、清野さんにそれをレクチャーしてくれます。私たち読者はそれを追体験しているような感覚に陥ります。
呆れてしまうような内容もあるのですが、「ポテトチップスのコンソメパンチ」にこだわり続けている男が登場する回は非常に参考になりました。コンソメWパンチというパワーアップした商品との出会い、カルビーかコイケヤかのメーカー間での葛藤。空腹感が襲ってきて私も買おうかと思ったぐらいです。
そして注目すべきはグルメ以外の「おこだわり」も多く収録されている点。「内ポケット」へのこだわりとか、どういうことかと思いますよね。知らない世界へいざなってくれる漫画です。
古谷三敏「ダメおやじ」
往年の名作で、ここで紹介した他の作品よりも少し昔の漫画です。
タイトルからはダメそうなおっさんの話かと思われますし、ちょっと知っている人は、ダメおやじが家族からも暴力行為を受けたりつまはじきにあっている状況を思い起こすのではないでしょうか。ですがここで取り上げるべきは、財閥の令嬢と出会って、なんだかんだあってダメおやじが社長になってしまってからの展開です。
この令嬢のおじいさんが、山で暮らしたり釣りをしたり車いじりをしたり猟をしたりと、とにかく多趣味なのです。ダメおやじがそれに影響されて、いろいろ始めていくあたりが個人的に最も楽しいですね。しまいにはジープを買いたいとか言い出します。
山小屋で一人キャンプしているダメおやじが、乱入してきた夫婦とともにキャベツを丸ごと使った「キャベッジダウン」という料理を作るシーンが印象に残っています。古谷さんの個人的な趣味が話にかなり活かされているようで、それが人生ドラマとも上手い具合に絡み合っています。読んでいて話としても楽しめ、知識も得られるという有意義な時間を過ごせました。
古谷さんは「BARレモンハート」でお酒を、「寄席芸人伝」で落語を、「減点パパ」で多種多様なうんちくを教えてくれる漫画を多く描かれており、私もいろいろ知識を吸収することができました。
守村大「まんが 新白河原人 ウーパ!」
守村さんの漫画は過去に読んだことがなかったのですが、どうも連載作品が一区切りしたのを機に森で暮らすことにしたようです。
こう書くとなんか軽い感じに思えますが、実際は森の中の土地を買い、家を建てるために気を全部切って根っこも掘り起こすところから始まり、ついに自らの手で立派な家を建てるまでに至ります。
とくに林業や建築の経験はなかったとのことですが、独学にて頭の中のアイデアを実際に形にしていくさまはすさまじい才能を感じます。漫画の合間には実際に建てた家や作った設備の様子がわかる写真が挟み込まれるので、信憑性を与えると共にその苦労もうかがえるというもの。
食糧の自給について、野菜を育てたり鶏を飼ったりという場面がありましたが個人t根気にはここがかなり興味深く面白かったですね。
ただ都会から来た漫画の編集者たちに対して、野菜の元の姿も見たことがないのかと作者が若干馬鹿にするようなニュアンスで描いているのは少々鼻につきます。誰もが最初は素人ですからね。この作者だって例えば自分の好きなバイクの部品が、どのような工場でどういった行程で作られているかまでは知らないんじゃないでしょうか(知ってたら申し訳ないですが)。それを他の人が、そんなことも知らずにバイクに乗ってるのかと馬鹿にして来たらムカつくでしょうしね。